deep down

暮らしの中で私の心が揺れたものを記す場所

カケラ

小さな欠片

それは平凡な海岸に落ちているような

歪なガラスの欠片

失くさないようにしっかり握っておかないと

どこかに落としてしまうから

「形ある内は大丈夫だよ

 それは温かく君の中にいる

 少しでもよそ見して手を緩めると

 指の隙間から毀れてしまうよ

 二度と戻らない砂のように…」

 

私は必死で守り続けた

雨の日も風の日も雪の日も

ピカピカのお日様の日も

決して指の隙間から 

毀れ落ちてしまわないように

壊れてしまわないように


ある日

夜の海で

とても綺麗な満月の日

月の青さに瞳を奪われた僅か一秒の出来事

それは

サラサラと指の隙間から毀れ

風に乗ってバラバラに吹かれ砂浜に落ちた…

夜の砂浜はとても冷たく

漆黒の海は私の味方では無くなった

しばらく惚けたように立ち尽くして

私はゆっくりと掌を開いた

 

そこには

生々しい傷跡だけが残っていた

かつて大切に大切に握られていたそれの痕が

赤く所々血さえ滲ませて

くっきりと刻まれていた

私は小さく「あっ」と声に漏らしたが

掌は不思議と痛まなかった

痛いのは心だった

何故か胸が痛むのだ

ズキズキと痛むのだ

悲しくて切なくてやりきれないのだ

跡形も無く消えたそれの変わりに残ったのは

掌の傷と胸の痛み

それは

ずっとそれを何よりも大切に握り締めていたと言う確かな証拠でもあった

 

目に見える物は何も無くなってしまったけれど

残った傷と痛みは

誰にも自慢できることでは無いけれど

それの残した傷と痛みがある限り

この先も生きていける気がした